ひゅおお…と風が吹く。
「来ないな……」
「来ないね……」
運・動・会
と、書かれた入場アーチの前に体操服の少年がふたり。
あとはだだっ広い校庭にだぁれもいない。
仲良し4人グループであるのにあとのふたりも来ていない。
〈パン、パ、パァん! 朝はパァン!〉
と飲み会のノリで考えたとしか思えないネーミングをパン食い競走につけた教師陣も来ていない。
ぽつねんとふたつの赤白帽は入口でもぞもぞした。
「え…連絡とか来てなかったよ、ね?」
「ランドセル全部ひっくり返して母ちゃんに見せたけどなかった」
「じゃあ、あるのかな…運動会」
運動会の3日前から学校全体にインフルエンザが流行ったのだ。学級閉鎖のクラスもあったけど、当日蓋を開けてみればふたり以外が全滅とは……。
仕方なしにふたりきりで入場アーチをてちてちくぐる。
「えっと……アキくん。組体操とか、する?」
「バカだろ、ハル」
「あっそうだよね。……さすが延期かなぁ」
「組体操は最後だろ」
「あっ。そっち」
ふたりは誰もいないのにこしょこしょ話し合った。
「じゃあええと、綱引きとか?」
「おう、オレ朝はご飯派だかんな」
「! じゃあ僕アッチ持つからアキくんコッチね」
ハルがハァハァずりずり綱を持ってきて、アキに渡して、反対の端っこに走っていった。
「ハル〜ッ持ったかぁ?」
「持ったぁー!」
「じゃあはじめッ」
──とまぁこのようにふたりが綱引きをしているので、夏になったかと思えば涼しくなり、また暑くなってはふたりの真ん中の盛夏が続く。
「あはは! アキくん楽しいね、ナツとフユも来れたら良かったのに」
「それな! でもたまにはハルと遊ぶのもいいな」
「じゃあみんなが来るまで綱引きしよ」
「おぅ、来たらリレーしようぜ」
だからあんまり夏を嫌わないであげてね、とそういうお話にございます。
テーマ:二人だけの。
7/16/2025, 3:53:09 AM