与太ガラス

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 部屋に帰ると、暖気が冷えた体を包んだ。同居人はすでに帰っているようだ。

「おかえり〜、もうすぐごはんできるよ」

 カナデはキッチンでグツグツ煮込んでいた。ホワイトソースの香りだろうか。

「お、もしかしてシチュー?」

 カナデの顔がぱぁっと明るくなる。

「そう!なんか急に寒くなったじゃん、だからあったかいもの食べたいなって思って」

「わかる、いきなりこの寒さはないよな」

 コートを脱いで手洗いうがいをしたら、自分も食事の準備を手伝う。食卓にスプーンや小皿を用意していると、トロトロのシチューを盛り付けた皿を持ってカナデが現れた。

「じゃーん、あったかシチューの出来上がりでーす」

 野菜の詰まったシチューからほわほわと湯気が立ちのぼっていた。ひと口食べるとソースの甘味が全身に伝わって体の芯まで温まるようだった。

「おいしい、なんか元気出てくるな」

 食事を終えてゆっくりしていると、洗い物を終えたカナデが何かを持ってリビングにやってきた。

「仕上げはこれ!季節が急に変わったときは、ココロの芯からあったまらないとね!」

 そう言って取り出したのは色のついた小さなグラスだった。中に白い液体…いや固体か? 真ん中で茶柱のようなものが立っている。

「え? ナオ、アロマキャンドル知らない?」

 言われてはたと気がつく。なるほどアロマキャンドルか。自分では買った試しもない。カナデはどこから持ってきたのか、こちらも自分では買わないマッチ箱を取り出し、マッチを擦ってキャンドルに火をつけた。

 次第に薄っすらと香りが漂ってくる。フルーツの香りだ。たぶんこれは

「りんご…?」

「へへ、そうそう、青リンゴみたいな香りでしょ、これカモミールの香りなんだ。落ち着く効果があるんだよ」

「カモミール…」

 私はつぶやきながら、だんだんと眠くなっていくのを感じた。今日は寒かったのに、部屋に入ってからずっと暖かい。まぶたが重くなっていく。

 ああ、そうか。

 一人で暮らしているときには気づかなかったことだ。部屋に入った時の暖気も、誰かの作ったシチューの湯気も、アロマキャンドルの香りも。冬って寒い季節だけど、あたたかさを感じる季節なんだな。

 私は心地良い香りの中でゆっくりと目をつぶった。

11/20/2024, 4:05:36 AM