木蓮

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彼女は嫌だを言わない。食べたいものも見たい映画も行きたい場所も、俺が誘ったものは断らない。聞いたところによると友達に対してもそうらしい。
彼女の部屋に泊まり、隣で眠りについたある日。ふと夜中に目が開くと、彼女のすすり泣く声が聞こえた。
「……大丈夫?」
「あっ、起こしちゃった……?」
わざとらしいくらい明るい声。
「……ごめん、ちょっと、嫌な夢見て」
鼻をすする。親に殴られ、なじられ、なんとか愛してもらおうと耐えて耐えて笑い続ける子どもの夢。初めて、彼女の弱いところに初めて触れた気がした。
「俺は、好きだよ。君の好きなものも嫌いなものも、知りたい」
上手く言葉にならなくて抱きしめる。

「夜ご飯どうする?ラーメン行かない?」
「ん……今日は、パスタな気分」

12/13/2023, 12:00:31 PM