「明日、海に行こう!」
君はそうやって大輪の向日葵のような笑顔を浮かべた。
僕は黙って頷いた。何を言ったところで、君の熱量に押し切られてしまうことがわかっていたからだ。
僕の返事を見ると、君は少し照れくさそうに、つぶやいた。
「前に言ってた、あなたのお気に入りの景色を私も見たい」
君の言葉に、僕は急に恥ずかしくなった。別にバレると思っているわけじゃない。あの景色を見たところで、まさか君を思い出すから好きだという滑稽な理由は、いくら名探偵でも導き出せないだろう。ただ、その景色がお気に入りだなんて隠したい秘密以外の何物でもないことを、うっかり君に話してしまったことが思い出されて、なんとも言えないむず痒い気持ちになった。
僕は、この気持ちを伝えたいんだろうか。だから、君にそんなことを話してしまったのだろうか。ふと、脳裏にあの景色がよぎった。穏やかな波、どこまでも白く続く砂浜、影一つ残さないように照りつける太陽。その全てが、君を表しているようだ。ずっと、この気持ちには蓋をしておこうと考えていた。仲のいい友人。それでいいじゃないか。これ以上を望んで、この関係が壊れてしまうことのほうが、気持ちを成就させるよりも辛いと思っていた。でも、あの景色の中で、君が僕に笑いかけたとしたら、僕は君の全てを手に入れたいという欲に打ち勝てるだろうか。穏やかでゆったりとした優しさも、汚れ一つない潔癖さも、みんなを包み込む太陽のような眩しさも、その全てを手に入れたいという欲に。でも今は、この関係を壊したくない。君とこんなふうに話せる時間を失いたくない。
だからせめて、明日が雨ならばいいのに。
明日もし晴れてしまったら、僕は……。
8/1/2024, 3:16:32 PM