ずい

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『失われた時間』

失われた時間は戻らない。
記憶を持ったまま転生や生まれ変わりをしたとしても。

大嫌いな弟に殺された。
その瞬間、世界に巻き戻しされる。もう三度めだ。
最初の転生で自称神の使いだという綺麗な女性に言われた。

「貴女がいなければこの世界は滅亡してしまいます。他でもない、貴女の弟君の手によって」
「もう死んだ私には関係ないでしょう」

死の先は天の国。そう教わってきたからこそ、この何もない空間にいるのは居心地が悪い。
疑いの目を隠すことなくそう言うと神の使いは笑顔を作って私の胸元に手を置いた。

「確かに貴女がこれまで生きてきた時間は戻りません。ただ貴女に、弟君よりも長く生きてもらわねば困るのです。必要ならば手を貸しましょう」

いってらっしゃいという言葉とともに胸元に力をかけられた。後ろに落ちていく感覚の気持ち悪さに目をつむる。

その先は。

「お嬢様! 弟君がお生まれになられましたよ」

憎き弟の誕生した瞬間だった。

失われた過去の私、過去に生きた時間。
そして三度めの今、自由気ままな平穏に生きる未来さえ失われたのだと知った。

5/14/2024, 2:14:09 AM