NoName

Open App

昼休み。
いつもの定食屋へ向かう途中、
街頭インタビューを見かけた。

照れた様子で応じる一般人と
インタビュアーの間には
「クリスマスの過ごし方は?」
なんて書かれたフリップがある。

世間一般様のお答えは
「恋人とデート」であったり、
「家族と過ごす」なんてのが大半だろう。

自分は
─仕事。年末進行。以上。

恋人もいねぇし、子供も居ない。
キラキラしたもんと程遠い
ヨレヨレスーツに身を包む
つまんねぇ大人だ。悪かったな。

そんなにクリスマスってぇのが大切なら
休日にでもしやがれってんだ。

こちとらしゃかりきに働く
社会の歯車の部品でしかねぇんだよ。
…言わせんなよな。

俺だって子どもの時は、
枕元に届くプレゼントを楽しみにしていた。
サンタの正体を知っても、
枕元にプレゼントが届いていると、
「この世界は、本当に不思議なことが起きるのでは?」なんて真剣に思っていた。

子どもの時に信じていた不思議な事は
大人になればなるほど夢物語に過ぎないと知る。

子供だから見られた美しい夢だ。
大人になったら現実を見なきゃいけない。
──今の自分のように。

あぁ、夢もねえ。

深い溜息をつき空を仰ぐ。
曇天だ。

この曇天を超えた遥か彼方に、
かつて自分が信じていた夢物語はあるのだろうか。

大人になって見えなくなってしまっただけで
ずっと存在しているのだろうか。

「もし、そうなら…雪の一つでも降ってみせてくれよ」
ポツリと言葉が漏れる。

─ああ。何、言ってるんだか。クリスマスの奇跡なんてファンタジーでしかないのに。

クサクサとした思いが足取りを重くしていたのだろうか、腕時計を見ると正午も半ばを過ぎている。
定食屋へはまだ少し距離がある。
今から行っても満席だろうし、昼休みが終わってしまう。
…仕方がない。
今日は定食屋は諦めて、コンビニの弁当でも買うとしよう。

会社近くのコンビニへ向かおうと踵を返したその時、空からハラリと落ちてくるものがあった。

白い。天使の羽のような───雪だ。
音もなく優雅に空から舞い降りてくる。

突然の雪で閑散となった通りには、
草臥れたスーツを着た男が一人、
雪の降る空を見上げている。

雪のイタズラだろうか、
男の頬には水滴の流れた跡が残っていた。
────────────────────────
ここで書き始めた時から
コッソリと目標にしていた
♡の数があったのですが、
本日達成しました。

目標を達成できたのはひとえに
これまで♡を下さった皆様のお陰です。

本当にありがとうございます。

12/25/2023, 11:27:36 AM