いぐあな

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SF。『私』と『三十年後の私』。300字小説。

激励

「美味いわ~。この蔵元、十年後に味を変えちゃって」
 コップの酒を一口飲んで『三十年後の私』と名乗ったおばさんが嬉しそうに笑う。
「『私』って本当?」
「ん? よく似てるでしょ」
「皺で解らないよ」
「いうね~」
 何でもタイムマシンの抽選に応募したら、見事に当たったらしい。
「で、どこにいこうか? と考えたとき『あの頃の不安だった私』に会いたくなった」
 柔らかく目の縁に皺を寄せる。
「…………」
「今になって思うと、ここがドン底だったね」
 頑張れ。
 にっと笑って、おばさんは消えた。

 今の『私』に会って、止めさせたくなるくらいの人生を『三十年後の私』は過ごしているらしい。
 私はテーブルの下の薬の瓶を開けると中身をゴミ箱に捨てた。

お題「あの頃の不安だった私へ」

5/24/2023, 12:01:10 PM