後ろから、追いかけられている。
深夜二時、今にも崩れそうな廃墟。
友達と二人で肝試しに来たが、まさかこんなことになるとは。
追ってくるのは鎌を持った女。
目が血走っている。
まともに話は出来そうにない。
逃げる途中で友達とはぐれてしまった。
振り返れば、女は俺の方へ向かってくる。
なんでだよ!と叫びたいのを堪え、廊下から開いているドアへ。
ドアを閉め、近くにあった椅子で開かないように固定する。
その瞬間、ドン!とドアに体当りする衝撃。
これで何とか籠城だ。さて、どーする。
…と、その時、背後からニャーとか細い声。
振り返ると、可愛い子猫が足下にすり寄ってくる。
子猫?なんでこんなところに子猫?
ニャーと鳴き、ドン!と鳴る。
うわあ、可愛いと恐ろしいがコラボしとる。
きっと捨て猫なんだろう。
こんな暗くて汚くて危険な場所に、こんな可愛い子を捨てていくなんて。
沸々と怒りが湧いてくる。
あの鎌女は、こんな可愛い子猫までも、餌食にしようというのか。
心が決まる。
片手で子猫を抱き上げて、もう片方の手で椅子をどかし、ドアを開ける。
果たして、女はそこに立っていた。
「やれるもんならやってみろ!この子には指一本触れさせんぞ!」
俺は子猫を抱きかかえたまま、女にタックルをかました。
確かな手応え。
猫がニャー!と鳴く。
女が、反対側の壁まで吹っ飛んだ。
そして俺は、腹の辺りに鈍い痛みを感じる。
見ると、女の持っていた鎌が、俺の腹にグッサリと突き刺さっていた。
「お前はもう大丈夫だ。俺はいいから、ここから逃げるんだ」
映画のようなセリフを吐いて、猫を手放す。
だが、子猫は俺から離れなかった。
ニャーと鳴いて、倒れた俺の体に身を寄せてくる。
なんて可愛いんだ。
コイツのために死ねるなら本望じゃないか。
「おい、大丈夫か?」
目を開けると、友達の顔。
生きてる…?…子猫は?
起き上がり、辺りを見回すと、見覚えのある廃墟。
鎌女は…いない。
子猫も…いない。
「いつの間にかお前とはぐれてさ、しばらくして探しに戻ったんだ。そしたら、女の悲鳴と動物の唸り声みたいのが聞こえて…怖くて廊下の角から覗いてみたら、なんかデッカイ獣みたいなのが女を…食ってた」
デッカイ獣…いや、まさか。
あの可愛い子猫が?そんな訳ない。
突然、忘れていた腹の痛みがぶり返してきた。
「お前、それ、ヤバイじゃん!」
血だらけの俺の腹に友達が声を上げる。
「そんなに痛くない。でも、救急車、呼んでくれ」
腹の傷は思いのほか癒えていた。
何かが、丹念に舐めた形跡がある。
あの猫はどこへ行ったのだろう。
女を跡形もなく消して、それから…。
いや、本当に猫だったのだろうか。
思えば、あんなほとんど人も来ないような廃墟で、子猫が一匹、生き長らえるとも思えない。
何か別の、人知を超える生き物だった可能性もある。
…怖いと怖いのコラボだったか。
それでも、俺を食べずに生かしてくれたのは、俺が身を挺して助けようとしたお返しだったのかも。
なかなか、イイ奴だったのかもしれないな。
それからというもの、その廃墟に近付くことはなかった。
俺の傷も、階段から転げ落ちて木片が刺さったということで誤魔化し、次第に完治していった。
時折、あの子猫の声が聞こえる。
ニャーと鳴き、心がドクン!と鳴る。
うわあ、可愛いと恐ろしいがコラボしとる。
俺の体、何かに乗っ取られたりはしてないか?
11/15/2024, 2:40:10 PM