ぼんやりとした、眠りという休息を不快感なく取るにはどうにも淀みすぎていて、あっても吐き気がするだけな眠気と疲労感、嫌悪感がずっとある。
自分は何かをするにしても、何を見聞きするにしても、いつも何か恐れている。自分のしていることは本当にしていて良いことなのか、目の前の相手が本当に何の打算も悪意もなく自分と接しているのか、自分の考えがそう考えていて良いものなのか、自分の見て聞いているものは本当に幻ではないのか。自分の存在、心の確実性なんていうのは考えるだけ無駄だと強く思ってから見えなくなった。おそらく未だ抱えている他のこともそのうち同じようになるのだろうが、まだ遠い話のような気がする。少なくとも今は何の疑問もなく自らの全てを信頼できるほど物を解ってはいない。
自分は殺されるのが怖い。ただ物理的に殺されるだけならば、死ぬまでの痛覚をある程度恐れはしても死ぬことそのものにはそれほど怖さはない。自分は死ねない殺され方が怖い。全て踏み躙られ貶められるのが、自分の無力が。それ以外の選べた筈の択を取らなかった自分が嫌いで、意思も力も無くその程度でしかない無価値。そうではないのはわかっていてもそう思ってしまう。
長く蹲っていた所から上半身を上げる。己が下敷きにしている、自分の片割れである白服は暫く前から微動だにせず、ただ自分を見ている。その目にはいつものような焼けるが如くの明るさはない。先に自分が絞めた白服の首には痕の一つも残っていなかった。ここでは事象それそのものを個々がそれぞれ自身に反映しようとしなければ何の影響も現さないので当然だった。自分の首には痕がある。
自身の行動の根本的な決定権は自身以外持ち得ないと考るのなら、神とは他ならぬ自分自身なのかもしれない。己が望みそのように動かなければ救いも無い。だからこそ、昔まだ神に祈ることをしていた頃、救われるなぞということも、安らぎを得られることも、一度たりとてなかったのだ。
目尻が妙に冷たい。自分はただ顔を覆う、この己を見られたくなかった。
「君は穢くないし醜くもない。でも真面目が過ぎる。君はほんの小さな子供だった。殺すのはだめだ」
白服がそう言った。自分は何を言えるわけでもなく黙る。
神様へなんていう言葉も祈りも疾うの昔に失くした。母とともに祈る己も死んだ。
「まだ何も信じられなくてもいい。気が済むまで泣こう。ここなら誰も君が泣くのを止めないから」
ただ黒いのだと思った己は黒くしただけだった。ただ白いのだと思った片割れは白いのではなかった。
4/15/2024, 8:09:54 AM