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 俺宛に届いた家族の手紙。中を読めば末の弟の拙い文字で故郷の祭りの事が記されていた。
「あぁ、もうそんな季節なのか…」
 故郷の春を迎え入れる祭りが始まったと。末の弟は妹や兄の助力ではじめて祭りに欠かせないクレープのような生地を焼いたのだとか。きれいなまん丸になるはずがうまくいかず、俺の見様見真似で薄く伸ばした箇所が破けて顔になったそうだ。それは便箋の隅に描かれていた。

「ははっ、本当だ。見て、俺の弟がはじめて料理をしたんだ」
 君に弟の絵を見せる。顔を持って困り顔をした弟にそれを見てニコニコ笑う家族の絵。後ろから覗き込んだ君の髪の毛がかかって首をくすぐられる。次は耳も。
「かわいいね」
 絵の下にお兄ちゃんが作ったのが食べたい!と書かれているのが、尚かわいい。

「俺もはじめて作った時は上手く焼けなかったよ」
「何でも器用にこなせそうなのに意外」
「諺にもなってるくらいだから、あれは通過儀礼だね」
「春のお祭りの料理が。」
「年々上手くなっていくんだ。…春が来たら大分過ごしやすくなるよ」

 雪は相変わらず降るけど、寒さも和らいで長い間吹雪いたりしないし、帰り道を見失うこともない。

「君の好きな季節のうつろいがゆっくりと見られるんだ。寒がりな君をそろそろ故郷に招待したいんだけど」
 肩に置かれた君の手に一回りも大きな手を重ねると弾んだ声が返ってきた。

 俺の故郷。ここからは遥か『遠くの街へ』君を連れて行く日はそう遠くない。

2/28/2023, 11:56:17 PM