「突然の君の訪問。」
心臓が、止まると思った。
息をしているかどうか分からなくても、鼓動の音は消えてなくなったように、静まった。
いつも通りの、暑い朝。
買い物に行こうと、席を立つ。
家を出て、眩しい日向へと入る。
早朝だというのに、道路には車が夥しく並び、人が込み合うように立ちはだかる。
少し、人を押し退けるようにして、店に入った。適当にものを眺め、選ぶを繰り返す。
もう、夏も終わりだ。日差しは真っ直ぐ、僕の方を向いて落ちてくるような季節。なにもできない季節。
どうして、こんなにも早く月日はたつのだろうな。そんなことを考えながら店を出た。
まだ、僕は君になにもできていないのに。
人通りの多い表通りを歩き、裏通りに差し掛かる。
やはり、人気は少ない方が、楽だ。君と同じように。
そのまま家に直で向かう。古びたドアを空ける。なにもない部屋に入り、なにもないのに断捨離をする。
ボーとしたまま、手だけを動かしていると、不意に、音の外れた「ピーンポーン」という音が届いた。
宅配便かなにかだろう。適当に、ボーッとした頭のまま、ドアに手を掛ける。
「はい」
顔を上げる。
そして、その格好のまま、束の間、僕の中で、全ての時間が止まった。
僕の目の前には、君がいた。
紛れもない君だった。
体つきや顔は少し痩せこけているけれども、それは、正真正銘の君だった。
体が、完全に固まった。
心臓が、血液が、止まった感覚。
体温が零度まで冷やされるような驚き。
なんでここに君がいるの?
なんで突然会いに来てくれたの?
そんな言葉も、出た、はずだった。
僕は君を見て、驚きすぎたのか、一つの声もでなくなっていた。
目線は合わせることができず、君の首から胸をさ迷う。
そんな僕に、君はあの、いつも通りの笑顔で。
ニコッと「会いたかったの」そう、微笑んだ。
8/28/2023, 4:03:05 PM