そんじゅ

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「ひとつ願いが叶うなら……ねぇ」

実に勿体つけた声で男は顎をさすった。
そのまま半眼で低く唸っている。
眠いのに主人の帰りを待っている犬のようだ。

「うーん。最近はさ、何でも言葉の裏の裏まで読もうとするじゃない?出し抜かれないように、騙されないようにって。まったく世知辛いご時世だよ」
「んん、まあ、そうですね」
「だからさ、この場合も『ひとつ』の中にどれだけ明瞭で誤解の余地ない言葉でもって願い事を盛り込むかが大事だと、ぼかぁそう思うワケよ」

なるほど彼はそれなりに真面目に考えようとしているらしい。少し安心した。

「それで。そろそろ答えは決まりましたか」
「いんにゃ、決まらん」
「ええっそんな!随分待たされたのに」
「やっぱりさ、この世界にぼくが望んでいいことなんざひとつもないんだなァ。」

苦笑まじりにつぶやいて、男は窓に目をやった。
星の煌めく夜空にまだ月の気配はない。

「言えばなんでも叶っちゃうから『お前たちの好きにすればいい』とも簡単には言っちゃいけない。何かと難しいんだ」
「個人的な望みでもよろしいのですよ」
「それこそ世界を滅ぼす劇薬だ」
「そうなりますか」
「ああ、神の心のままの願いなんざ碌なもんじゃない」

全知全能にして万物の創造者。
創世の神はもう一度、今度はにっこりと微笑んだ。
麗しい笑顔に天使は会話の終わりを悟る。

「だから答えは秘密。沈黙は金、だよ」



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願いが1つ叶うならば

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所感:
願いが何でも叶うもどかしさを知っている神。

3/10/2025, 11:50:17 PM