ミキミヤ

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放課後、私は、教室で文理選択調査票とにらめっこしていた。うちの高校は、2年生から文系クラスと理系クラスに分かれることになっていて、1年生の3学期の今、いよいよそれを決めなければならないのだ。

「うーーーん……困ったなあ……」

私は特別、将来の夢と言うものがない。高校を卒業したら何となく大学にいって、無難に就職できればそれでいい。
そんなふうなのに、テキトーに決めることも何故かできず、モヤモヤとひとりで悩んでいるのが現状だった。

「あれ、まだ悩んでるん?」

そんなとき、隣の席の三島さんが話しかけてくれた。彼女は、こうして悩んでいる私とは対照的に、文理選択調査票を真っ先に書いて提出していた。普段から看護師になることが夢だと言っているから、すぐに選べたんだろう。

「悩んでるよぉ。私、三島さんと違って将来の夢とかないもん」
「んじゃ、好きな科目とか得意な科目で決めたらどう?」
「それもさあ、どっちも音楽だから、文理関係ないの。他はどれも同じくらい苦手」
「大学で学びたい学問とかは?」
「今んとこないなあ……」
「えー、そっかぁ……。困ったねえ」

三島さんは困り顔になってしまった。

「はあ……どうすればいいの……」

私は困り果てて言った。
三島さんが顎に手を当てて思案する。しばらくして、何か思いついたのか、パッと表情が晴れた。

「うちの部活の先輩たち、文系理系どっちもいるから、それぞれの経験談きいてきてあげようか?」
「え、いいの?」

最初に先生達から文理それぞれの説明は受けたが、実際の経験談はきけていない。
帰宅部で委員会にも所属しておらず、縦の繋がりを持たない私にとって、願ってもない提案だった。

「いいよー。私自身は経験者に訊いてみようとは考えもしなかったけど、よく考えたらそういうの面白そうじゃん」
「ありがとう……!よろしくお願いします……!」
「いいってことよ!」

三島さんはそう言って、親指をグッと立てニカッと笑った。

「じゃ、私、部活行くから!」

三島さんが元気に教室を出ていくのを見送って、私は、手元の文理選択調査票に目を落とした。
相変わらず書くことはできない。しかし、先程まで心を支配していたモヤモヤは、かなり薄れていた。
さっき、三島さんと話せてよかった。あのままひとりで悩んでいたら、ずっとモヤモヤしたままだっただろう。
文理選択調査票をひとまず鞄に仕舞う。
ほうっ、とひとつ息を吐いた。

11/22/2024, 9:01:29 AM