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 なんてカッコいい少年なんだと思った。
 住んでいた村を魔物に襲われ、大切な人たちを失い、焼き尽くされたらしい。挙げ句の果てに、唯一守ることのできた村人たちからは裏切られ、他人どころか自分自身すら信じられなくなって逃げてきたそうだ。人々で賑わうこの街を眺めながら私に語ってくれた。
 彼は自分の力が思った以上の威力を持つことに、いつまで経っても慣れないらしい。
「いつか、本当に人を殺めてしまうのではないか」
 震える手を隠しながら、そう口にした彼は諦めたような、情けない顔をしていた。
 でも私は、彼の力に救われた。知らない男に襲われそうになったところを、たまたま通りかかった彼に助けられたのだ。確かに目の前で知らない男の足を払い、馬乗りしてタコ殴りする姿は今でも怖いが。男が這いつくばりながら去った後、私に「もう大丈夫」と笑って手を差し出してくれた。私の手を取る力は優しくて温かった。彼は間違いなく、私にとってのヒーローだ。
 彼の目的は魔物を倒して家族の仇を取ること。目的が同じ仲間を増やしながら、魔物の巣窟を探して旅をしていた。私もその巣窟に用があると伝えると、彼は笑ってまた手を差し伸べてきた。
 彼の仲間たちは仲が良いんだか悪いんだか理解できない部分が多かった。意見が割れて衝突することが多かったけど、お互いの実力は認めていて。トラブル続きな毎日を一緒に乗り越えてきたからこその絆があった。
 ただ共通して紅一点となった私に対しては優しかった。一人で戦うには心許ない私を助けてくれた。弱い私を見捨てず、一員としてカウントしてくれたことがとても嬉しかった。

 なんだかんだ楽しかった旅も最終局面。魔物の巣窟に辿り着いた私たちを待ち受けていたのは、今までとは段違いの強敵ばかり。戦って戦って、ひと息つく間もなく奥へと進んだ。
 全員がボロボロになりながら進んだ一番奥には、魔物を操る人物がいた。不気味に笑う年老いた男。仲間たちは、知らない謎の男に対峙して目を真っ赤にした。私は、ただその男を前に立ち尽くした。
 謎の男が攻撃を仕掛けてくる。私たちは防戦一方でその男に傷すらつけられない。男が不敵に笑みを浮かべた時、男の背後で何か光るものを見た。
 誰も気づいていない。光るものの正体はわからないけれど、狙いはおそらく先陣を切る彼だと分かった。だから、私は咄嗟に彼の前へ出た。

 衝撃が私の体を貫いた。一瞬の出来事だった。音も聞こえなかった。動きが止まった私は倒れ込んだ。
 視界に彼の顔が映った。よかった。無事だ。
 目に涙を溜めて何か叫んでいるようだ。でもそれは言葉として認識できなかった。胸の辺りが生温かい。ドクドクと体内から流れ出る何かを感じる。ああ、そうか。私、胸を貫かれたのか。
 泣きそうな彼の顔にそっと手を伸ばし、頬を撫でた。

「    」

 口が動いたか分からない。声が出ていたかも怪しい。でも伝えたかったことは言えた。
 全身から力が抜ける。ひどい眠気に襲われた。眩しくて目が開けていられない。最期は彼の泣き顔が目に焼きついた。

 ここで力尽きる私のことなんて気にしないでほしい。本当は、最初から仲間にしてもらえるほど価値もなかった。それなのに、あなたが私を助けてくれたから。どうしてもあなたを助けたかった。助けて恩を返したかった。
 死んで恩を返せるなんて思ってないけど、結果そうなってしまったことは許してほしい。
 私の父が犯した罪を、どうか貴方の手で裁いてほしい。

 生きて、「私の希望」
 地獄で待ってる。



『たった一つの希望』

3/2/2024, 3:13:29 PM