ほろ

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「やあ、幽霊部員くん。今日は何用かな」
部室に入った途端、逆光を味方にして微笑むメガネ女が目に入る。どっかのアニメで似たような場面があった気がする。
「用がなきゃ来ちゃダメなのかよ」
「いいや? キミは一応部員だから、問題はないけども」
「だろ?」
近くにあった椅子を引いて座り、スマホをいじる。
メガネ女はツッコむことを諦めたのか、息を吐いた後、床に積まれた本を適当に机に広げた。
パラパラ。本のめくれる音だけがする。
十分くらいスマホをいじって、顔を上げる。メガネ女と目が合った。
「なんだい?」
「いや、別に」
「ふぅん」
「…………なんだよ」
「いや、キミ、意外とこの部室が好きだよなと思って」
「は?」
スマホが手から滑り落ちそうになる。慌ててバランスを取って、もう一度「は?」と言えば、メガネ女はニタリと笑った。
「最近よく来るだろう? わざわざ、私しかいないこの部室に、幽霊部員のキミが」
「それはっ……」
「よっぽどこの部室が好きなんだな」
そっ、と口から漏れる。
それは違う。って言いたいけど、コイツは多分言ったら気付く。いくら鈍感でも気付く。好きなのは部室じゃない。
どう言えば誤解が解けて、多少なりとも伝わるのか、悩んだ末。
「…………お前に会いたくて来てるんだよ」
「は?」
メガネ女の素っ頓狂な声がする。
自分で言った言葉を思い出し、頭の中で繰り返して、俺も「は?」と素っ頓狂な声が出た。

もしや、好きと言うよりも恥ずかしいことを言ってしまったんじゃないだろうか。

1/19/2024, 11:50:14 AM