「友達なんかじゃない」
「あいつは、友達なんかじゃない」
声を荒げたちょうどそのとき、彼女と目が合った。
開け放たれた教室の後方の入口で固まる彼女。
教室内の空気が凍りつく。
「あ、えっと……忘れ物、しちゃって……」
彼女は蚊の鳴くような声を出した。
男子生徒五人が残っている教室に、人見知りの激しい女子がひとり入るのは勇気がいることだろう。
彼女は、自分の机の中からノートを取り出し、逃げるように立ち去っていった。
ついさっきまで、俺と彼女の関係を揶揄い、言いたい放題していたくせに、気まずそうに目を逸らす悪友たち。
無性に腹立たしくなった。
こいつらにではない。
自分に対してだ。
俺は教室を飛び出した。
ほんの数十秒前に教室を出て行ったはずなのに、彼女の姿は廊下になく、焦りと不安と確信が俺を襲う。
絶対、聞かれた。
揶揄われて、恥ずかしくて、思わず言ってしまった一言を。
絶対、言ってはいけない言葉だったはずなのに。
あの場所に向かって走る。
彼女と過ごした、秘密の場所。
友達なんかじゃない──それは、文字通りの意味ではなく、それ以上の感情を彼女に抱いているから、友達だと思いたくない、ということなんだ。
どう聞いても誤解しかされない言葉を否定するには、まだ言うつもりは無かったことも伝えなくてはならない。
俺のことを友達だと信じている彼女。
俺が邪な気持ちで見ているなんて知ったら、彼女は俺に失望するかもしれない。
それでも、さっきの発言は撤回しなくてはならない。
どうか、どうか、あの場所に彼女が居ますように。
いや、居るはずだ。
居てくれ、頼む!
俺は強くそう願いながら、旧校舎の非常階段を昇っていった。
────友達
10/26/2024, 2:30:24 AM