「ありがとう」
屈んだまま、北斗が言った。理由が分からず黙っていたら、少しだけ身を起こした彼は
「これ、くれて」
と、手にしているネイルの小瓶を見せて笑った。
私はぎこちなく笑って、彼の頬に貼られたままの湿布を盗み見た。まだ、『元カレ』に叩かれた頬は腫れている。
「あとは乾かすだけだよ」
「おー。似合うじゃん」
「ね、夜鷹も塗ってあげる」
「いい、いい、似合わないって」
そんなこと言わずにさ、と骨ばった北斗の手が私の足首を掴む。
女の子って細いんだね、なんて笑いながら丁寧に私の爪を塗り潰していく。濃紺にラメが散りばめられたネイルは、夜空みたいだ。
少しだけ震えている手が、爪からはみ出て親指を引っ掻いた。
「俺も女の子だったら良かったのかな」
北斗の頭を軽く叩いた。鼻を啜った北斗は私を見て、泣きながら笑った。
黒い瞳が輝いて、星が溢れるようだった。
3/16/2024, 7:32:28 AM