【鳥のように】
ビルの屋上のフェンスから身を乗り出し、天へと手を伸ばす。どこまでも広く真っ青な、雲ひとつない空。照りつける陽光が眩しくて、目をしばたかせた。
君は僕を鳥のようだと笑ったけれど、僕は本当はそんな立派な人間じゃない。君の前でだけは自由で強い僕でいたくて、必死にカッコつけていただけだ。本当の僕は帰る場所は欲しいし、誰かに思いきり愛されたいし、一人は寂しいって感じる気持ちもある。自分の行きたい場所へと軽やかに旅立っていく『僕』なんて、ただの取り繕った幻想に過ぎない。
(僕が本当に、鳥のように空を飛べたなら)
そうしたらこの大空を渡って、君に会いに行くのに。さんざん迷いながらも結局、自分の夢を追って海の向こうへと旅立っていった君のほうが、よっぽど何にも縛られない自由な鳥のようじゃないか。
またねと朗らかに手を振って去っていく君に、結局渡せなかったシルバーの指輪を、ポケットの中で弄んだ。
8/21/2023, 9:53:59 PM