沼崎落子

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恋って無理にでもしていなければ大人になれないのだと思っていた。ドラマも漫画も本も映画も大人はみんな恋愛をしていたから。

――別にしなくていいだろそんなの。

そう話しかけてきたのはゼミの友達だった。演習で同じ班になって以来、仲良くしている。
彼に関しては、まわりから「付き合えば」と言われながらも絶対にわたしたちは恋人にはならなかったし、告白もしなかった。お互いに友情はあったかもしれないが恋愛的な意味の好意はなかった。

「でも、してないと変な人に見られる」
「中指立てとけ」
「……下品だなぁ」
「相手を異性をパートナーにする恋愛感情ありき、性欲ありきの人間とみなす方が下品だと思うね俺は」

 そう言われて、わたしは隣に座る男をそのように見ていると思った。彼には可愛い彼女がいつかできるのだろう、とそう思っていた。
 ごめん、とわたしが謝ると彼にはちゃんと伝わったらしく「いいよ」と笑っていってくれた。

5/19/2023, 8:18:45 AM