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誰も知らない秘密



 ずっと気になってたんですけど、それなんなんですか?他愛もない世間話が途切れたタイミングで、目の前の後輩がそう切り出した。雑談がてら目を通していた書類から顔をあげると、机の端に置いてあるクイーンの駒を指さしていた。

 「ずっとそこに置いてますよね、他の駒はないんですか?」

 指をさしつつも、一定の距離を保って触れないようにしている後輩の気の利きっぷりに見習わなければなあと感心しつつ、駒を手に取る。別に触られて困るものではないよと手渡そうとしたけれど丁重に断られてしまった。

 「絶対大事なものじゃないですか、なんか嫌です」
 「本当にたいしたものじゃないんだ。ただ、なんとなく記念みたいなもので」
 「記念……ですか」

 駒の代わりに、先程まで目を通していた書類を渡すとまだ名残惜しそうにしつつ、後輩は部屋を出ていった。
 誰もいなくなったところで手の中の駒を日の光に当てると駒の底に彫られたアルファベットが透けてみえる。誰も知らないこの駒の秘密。元々のこの駒の持ち主はきっとこの駒たちは宇宙の塵にでもなったと思っているだろう。まさかこの俺がひっそり抱えているなんて、そしてこのアルファベットの意味に気づいているなんて、思いもしないだろう。

 誰も知らない俺だけの秘密


 

 

2/7/2025, 2:36:18 PM