紅月 琥珀

Open App

 夢で見たような気がするの。
 この高く聳える塔の風景を。
 光と風を連れて遊び疲れたように、明けていく朝をぼんやりと窓辺に凭れて眺めていた。

 深い深い沈黙の中で、声をなくしたように静寂が世界を包み込む⋯⋯そんな朝。はりつめた太陽に手を伸ばす。
 掴めずに揺れるこの手で何をすくいたかった?
 遅すぎる懺悔をいっそ焼いてくれたなら、誰をすくえるの?
 無意味な問いに答えるモノは居ないけど、この指をすり抜けなかったただ一つを確かめる。
 規則正しい鼓動。伝わる熱と呼吸を聞いた。

 いつかの空を夢見てる。
 呼び戻したかったのは何だった?
 月影に光がのまれる前に、私もソラへ飛び込んだらすくわれる?
 焼き付いて痛む羽も、なくした声の行方も⋯⋯何一つ掴みきれなかったこの手すらも、ひとひらの想いと一緒にあの空へ落としたなら安らかな眠りにつけるの?
 なんて、悪夢(ゆめ)から覚めてひとりきり。誰もいない世界の中で、今日も一人懺悔する。

 約束され続ける朝の訪れと、罪過に苛まれる夜を繰り返す。
 ずっとそうして生きるのだろう。
 ずっとそうして、生きていくのだろう。

4/13/2025, 2:28:54 PM