『高く高く』
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ねーねーちょっと来て!」
新聞を読んでいた夏の昼間、視界の外から声が聞こえる。姪っ子の声だ。
一昔前の話。あの頃の夏は、確かに暑けれど暑すぎず、外で遊ぶのにちょうど良かった。まあ、大人の体力でも出れるほどの気温ではなかったので、私は家の中でこうして新聞を読むことになったのだけれど。
姪は今年で4歳になった。もう歩けるし喋れるし、何より可愛い自慢の姪だ。女の子なこともあり、引きこもりがちにならないか少し心配だったが、外で遊ぶのが好きな子に成長している。
はいはい、と返事をして、声のした方へと向かう。ついた先は縁側で、空を見上げる姪の姿があった。
「あっきた!見て見て!」
促されるまま見上げると、かなり近いところに大きな入道雲がある。
「あれ、おっきくてわたがしみたい!手を伸ばしたら取れないかな?」
ああ、そろそろ大雨が降りそうだ…と思った瞬間、姪は続けてそう言った。やけに現実らしい考えをしてしまった自分が少し恥ずかしく感じるとともに、姪の純粋さに感心する。
「うーん、大人になったら取れるかもしれないね」
雲をとるという考えは、私も幼い時に考えたことがある。何故だか分からないが、頑張れば取れるものだと思い込んでいた。今考えたら無理に決まっているのだが…子供の夢は壊してはいけない。壊すものでは無いはずだ。こういう時、話に乗ってあげる方がお互い得である(子供も喜ぶし、子供の可愛い反応が見れてこちらも嬉しいからだ)。
「えー、大人になるまでなんて待てないよ…今取りたいの!」
…大人になるまで待てないところも、なんだか私に似ている。まあ、こういう時は…
「じゃあ、僕の肩に乗ってみるかい?そしたら、少し空に近づくかもしれないね」
これがおそらく最適解。
姪を肩車して、ほら、こう手を伸ばしてみたら取れないかな?と声をかけたり。うーんと言って頑張って手を伸ばす姪が、姿は見えずともとても可愛らしい。
「ふふっ、取れそう?」
「んー…まだ届かないよ!もっと高くして!」
急な無茶振りだ。さすがに、私に身長を伸ばす能力はない。
でも、取れないとは絶対に言わない。そう、子供の夢は壊してはいけないから。
結局、姪の中で「まだ子供だから雲をとることが出来ない」という結論になったようで、30分ほどしたら大人しく私の肩から降りた。
降りた後に姪を見ると、悲しそうな感じは一切なく、何かしらの決意を抱いたような顔をしていた。そして、それは直ぐにどんな決意なのか判明する。
「私、いつかおっきくなって、あのわたがしを食べるの!絶対!」
「そっか、じゃあいっぱい遊んでいい子にしないとね」
微笑ましい夢だ。
目を輝かせながら私にそう宣言した姪。その成長が、少し楽しみになってきた。
また会う時は、一体どんな夢を持ってくるのだろう。
10/14/2024, 1:17:05 PM