「主様は今」
幸せっすか?
聞かれた時に息が詰まった。
幸せ、とはなんなのか。
仕事は辛くて、休日にも楽しみがなく、
友人もどんどん結婚したりキャリアアップで忙しく疎遠になり
SNSを見るのも億劫。
料理を作るのも、掃除をする気力さえ無い私を
それでも主様と呼んでくれ、世話をしてくれる執事たちにとって
私はどう見えてるのか。
明らかに顔に出てしまってたのか、アモンはヘラっと笑って
今日のアフタヌーンティーはロノ特製のカボチャのタルトがあるらしいっすよ~
なんて話を変えてくれた。
きっと、意味なんてそんなに考えてなかった。
ただ、幸せかと聞いただけ。それだけ彼らには幸せというものが身近にあるのだろうか。
アモンがティーセットを準備しに席を外した後、気持ちがどうも落ち着かなくて部屋から出た。
厨房の前を通ると香ばしい匂いが鼻に流れ込む。
「できた!うん、いい感じだな。焼きたてだから早く食べさせてあげたいぜ!」
「ロノ、ジャムってこれだけっすか?」
「今日はブルーベリージャムとマーマーレードジャムを用意したんですけど、主様苦手でしたっけ?」
「いやーーーー……ジャムの種類多くしたら喜んでくれるかなって」
「なんですか、それ」
聞くつもりも無かったが厨房での声が耳に入る。
「少しでも主様が喜んでくれればって思うんすよ。さっき元気無いように見えたから」
「えっ……主様具合悪いんですか!?」
「いや、そういう訳じゃなさそうっすけどなんか…お疲れのようだったんすよね。疲れたら甘いものがいいけど、いつもと同じだと味気ないからなにか喜んでもらえる事ないかなーって思って」
やっぱり顔に出てしまってたのがバレたのか、恥ずかしくなる。
聞いてたらどんどん自分が情けなくなってくる気がして
さっさとこの場から逃げることにした。
庭に出るとラムリがいた。
天気がいいからか、木陰で寝そべって日向ぼっこをしていたので声をかけるのはやめた。
私もどこか、休める場所…とラムリがいる木とは別の木の木陰に入って座ってみる。
「主様??」
『うわっ!!』
いきなりガバッと起き上がったラムリに思わず声をあげてしまった。
起き上がって私の元に来たラムリは隣にピタッとくっついて
一緒にお昼寝しましょ!
と誘ってきた。ティーセットの準備できっとアモンは時間がかかってるし、きっと呼びに来てくれるだろう。
快諾し、自分も横になる。
「……僕の話してもいいですか?」
傍でラムリが話し出した。
「僕、今凄く嬉しいし、幸せなんです。」
……また、幸せについてか
『……なんで幸せなの?』
羨ましい、と同時に少しだけ妬ましくもあった。
私は幸せ、なんて感じたことないのに
ここの執事は幸せだと口に出して、顔に出して私に笑いかける。
羨ましい、妬ましい、なんで、どうして
「だって、主様と一緒にいられる時間が増えたから」
『え……?』
たかが、それだけで?
『それって幸せ?なの?』
驚いて聞き返すと、ラムリは元気良く返事を返した。
「主様がいない時より今が楽しいんです。主様が来てから嬉しいことばかりなので!」
皆そう思ってますよ!と続けるラムリに
『私、幸せって思えたこと無い』
傷つくであろう言葉をつい、放ってしまった。
ハッとしてラムリを見ると、きょとんとした顔をした後、少し笑いながら私の頭に触れる。
「じゃあ、主様が幸せーって思えるように僕がいっぱい頑張っちゃいます!大丈夫!!実は幸せって案外気づきやすくて気づきにくいところにあるんですよ!」
ルカス様に聞いたんですけどね!と得意げに話すラムリを見て
謝るタイミングを逃してしまった。
頭を撫でてくれるラムリの手は温かくて、同時に自分が情けなくなり涙が溢れた。
「大丈夫、大丈夫。主様はもっと僕達を頼ってくれていいんです。それが僕達の幸せだから。……だからもっと沢山こっちに帰ってきて?」
そっか、幸せって見えてなかっただけで
近くにあったんだ。
『ありがとう、ラムリ』
「僕達はずーっと主様の幸せを願っています!」
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幸せとは
aknk
1/4/2024, 4:52:38 PM