しずの

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今日もサーカスは大勢の客で賑わっている。

舞台袖からちょっと見るだけでも、観客の多さにまるで世界中から歓迎されているみたいな気分になる。

無論、客達の目当ては道化師の私ではなく、今まさに綱の上から観客に手を振っている彼女に違いないが。


きつくコルセットを締めた胴体とは対照に、くるりと曲線を描いたスカート。
ゆっくりと肩を揺らしながら、まるで雲の上をスキップするように軽やかに進む彼女の独特のリズムは、観客を1人残さず虜にする。


そして、私はそれを見上げて大袈裟に驚いて見せた後、それを真似して 地面から数センチほどしかない綱渡りに挑戦し、あっけなく転んで笑わせる役だ。
それでも彼女と同じステージにいられる事が、嬉しくてたまらなかった。



どの曲芸師も挑戦しようとさえ思わなかった、
いくつもの転調を繰り返すこのメロディーを、彼女は手懐けて我がものにしている。
客の笑い声も歓声も、すべてが彼女の曲芸の一部なのだ。



「君だけのメロディ」2025.6.13

6/13/2025, 1:19:08 PM