『君と見上げる月』
※BL
空には丸い月が浮かんでいる。
この街に来て初めて見た満月は、あまり記憶にない。
二度目の満月を見上げた時、隣に君がいた。
三度目は君の部屋の窓から差し込む青白い光を見て、静かにけれど優しく夜空を照らす姿が、不器用だけど優しい君に似ていると思ったんだ。
それから、月を見る度に君のことを思い出すようになった。
四度目の月を見上げながらそんな話をしたら、朝日や夕日を見る度にお前のことを思い出す、と君がぽつりとこぼした。言ってから、珍しくしまったと言った様子で、君は口を手で押さえる。
「静謐な夜の闇を払拭して、空に青をもたらす朝日は、うるさいお前みたいだと思っただけだ」
「ふーん、それなら夕日の方は?」
「忙しなく地平に沈んでいく様が落ち着きのないお前にぴったりだろ」
「ふふ、君にしては苦しい言い訳だ」
「うるせえ」
頭の回転が早く、いつもは何か失言をしても口八丁で僕のことを誤魔化す君が、珍しく返答に困った姿は、年下らしくて可愛くて思てしまう。
「嬉しいよ。君が、僕がいない時でも僕のことを考えてくれているのは」
「……いつだって、お前のことしか頭にねえ」
「え……?」
「オレは、もうとっくに、いつもお前のことしか考えてねえよ」
「なっ……」
「顔、夕日みたいに真っ赤だぜ?」
「君のせいだろ」
結局いつものように、僕の方がしてやられてしまうのだった。
9/14/2025, 5:54:38 PM