Morita

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街へ出るなんてごめんだね。私はこの暗くて安全な部屋から出たくないんだ。

食べ物も生活用品もここへ届けてもらえるっていうのに、何を好き好んで、自分の醜い姿を人目に晒して後ろ指をさされてヒソヒソ言われながら歩かなきゃいけないんだい。私はもう、見せ物になんかなりたくないんだ。

「きみは綺麗だよ。街中にいる女の子たちより、ずっと」
「馬鹿言うんじゃない。用が済んだならさっさと出ていきな」
「嘘じゃない」
「どうせ外に仲間がいるんだろ。言いくるめて外にへ連れ出して、私を笑い物にする気だ」
「信じてくれないのか」
「信じないね」
「こうして毎晩食事を届けに来てるのに?」
「信じちゃいないさ。金で雇われてるやつなんか」

床に硬いものが叩きつけられる音。暗闇の中で火花のように金貨がきらめいた。

「そんな風に言われるなら、いらない」
「いい加減にしな」

金貨を青年の方に蹴り飛ばす。
青年は動かない。まっすぐこちらを見ているのが分かる。

「目を覚ませよ。きみを醜いって言ってるのは誰だ。笑われてるって吹き込んだのは誰だ。きみをここに閉じ込めてるあの人しかいないだろ。そんなやつの言うことは聞いて、なんでおれの言葉は信じてくれないんだよ」

「なんでって」

あんたの言葉を信じて舞い上がって裏切られる方が、みじめじゃないか。

静寂の遥か遠くから、街の喧騒が聞こえる。

「帰んな」

どちらが嘘をついているのか。
知らない。知らなくて良い。いずれにせよ、この暗い部屋にいれば私は傷付かなくて済むのだから。

【お題:街へ】

1/28/2024, 3:15:13 PM