『空模様』2023.08.19
ことの成り行きの様を、空の様子に例えた人は天才だと思う。
晴れもあれば、曇りもあり、雨も降る。そうした移り変わりは、人の心とよく似ている。
普段は優しくても、機嫌を損ねることもある。
今の彼がまさにそれで。
「業界人である前に社会人なんだから、もっと自覚を持たないとダメだよ」
後輩たちを前に、普段は穏やかな彼が強い口調で言う。
彼はテレビでは「いじられキャラ」として通っている。しかし、それはあくまでキャラクターであって、実際の彼は礼儀に厳しいところがある。
そんな彼に後輩たちは遠慮なく接していった。最初は笑っていたが、彼の「笑って許せる範囲」を超えてしまったため、こうして怒っているのだ。
怒鳴ったり物を投げたりはしない。ただ、何が悪いのかを淡々と言う。あの柔和な顔で。
「ちょっとやりすぎじゃない?」
と最初に言った時から、彼はイラついていたように見えた。しかし、そこは普段の彼だったので付き合いの短い後輩たちは気付かなかった。それは仕方がないことだ。
だんだん悪くなる雲行きを晴らすにはどうするか。
ここは俺が悪役になるしかないだろう。
「まあまあ、こん子らも反省しとるみたいだし。そん辺にしておいたらどう?」
俺が普段通りのテンションで助け舟を出す。当然、彼はさらに機嫌を悪くする。
雷でも落ちそうな雰囲気に、後輩たちはハラハラしているが、そこは俺の腕の見せ所というやつだ。
「ぐらぐらこくのも分かるけど、許してやるのも先輩のつとめばい」
彼の両肩に手を置いて、揉んでやる。ついでによしよしと頭を撫で繰り回した。
「俺のこのイケメンの顔に免じて、許してやってくれん?」
かわいーくぶりっ子気味に言うと、彼は困ったように笑う。そして、後輩たちに「これから気をつけて」と柔らかく言って解放した。
「甘いんですから」
「なーに言うとるか。俺が年下を甘やかすのは、今に始まったことやなか」
お前も例外じゃないよ、と付け足すと彼は普段の笑顔を取り戻した。
どうやら、曇っていた空は晴れたようだ。
8/19/2023, 1:42:28 PM