行かないで、と願ったのに母は仕事に行ってしまった。
熱のある身体で揺れる天井を見る。学校に休みの連絡を入れてもらったら少し楽になった。私はふらふらと立ち上がり母の部屋に行く。押し入れに体を滑らせながら、前に見つけた古い日記を手にとった。
考え直そうよ。僕たちの子供のためにも一緒に居たい。
お願いだから話しましょう。ゆっくりでいいから。
と書かれた手紙がその日記に挟んであることを私は知っていた。
それを書いた私の父は一緒に暮らしていないけれど、幼い子供にお願いするように優しく柔らかな言葉で必死に母を繋ぎ止める父の熱意が伝わってきて幼いながらに羨ましかった。
20になったら会いに行きたいと思っていたけれど結局は会いに行っていない。血を分けた1人が今もどこかにいて、もしかしたら腹の違う妹や弟がいるかもしれない。考える度に足が床から離れるような不思議な気持ちになる。もし新しい家族と過ごしているなら、自分の子を見つめながら私に思いを馳せることはあるのだろうか。まぁそれはその子達に悪いか。
会った時の挨拶を真剣に考えていた時期もあった。
私とその人は喫茶店とかで会って、敬語を使いながら今までの話をする。母が元気なことを伝えるか、本当は今の父とも上手くいかずずっと大変だったことを伝えるかを悩みながら言葉を紡ぐ。2人とも珈琲を頼んでいて、軽食も頼んでいいよとか、そういうことを言ったりして、今の家族の話や仕事の話をする。
いつか会ったら父と呼べるのだろうか。
お母さん、お父さんに夢ばかり抱いてごめん。
けれど字の綺麗な差出人に、私と目が似てる人に会ってみたいなと思うことは許して。
11/3/2025, 10:26:14 AM