この行動に意味があるのかと言われたら、きっと答えられない。けれど、動かずにはいられなかった。
君と喧嘩をしたあの日と同じ色をした空を否定するみたいに、いつもは着ない真っ赤なスカートを翻す。息が切れて、喉に焼けるような痛みが走る。足は、止まらない。
「はあ、はあ、はあ……」
苦しさに視界が揺れる。君が行ってしまうまで、あと10分。きっと今の私は、メロスなんかよりもずっと速い。
君が引っ越してしまうことが嫌だった。直前まで教えてもらえなかったのが嫌だった。でも、それを許せなくて当たってしまった自分が、何よりも嫌で、許せない。
「まに……あえっ」
いつもの公園を曲がり、部活で賑わう学校を通り抜け、大通りの商店街を駆け抜けると、駅が見えてきた。ホームに駆け込み、君の姿を探す。東京行きの1番ホームは、今日に限って人で溢れている。
―間もなく、1番線列車が参ります―
アナウンスが鳴り響き、車輪の音が聞こえ始めた。間に合わない。絶望にも似た感情が胸に広がる。このまま、離ればなれになってしまうのか。
ぽたり、頬を伝う感触に、無性に悔しくなった。いっそこの電車に飛び乗ってしまおうか。そう、頭では思うものの、体はてんで動く気配がない。酷く、惨めだ。
「――?」
名を呼ぶ声に顔をあげると、心配そうな、驚いたような微妙な表情の君と目が合った。
12/2/2024, 10:20:01 PM