お痒

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救いの手のない部屋の片隅で、粗末な記憶に触れた。

それは針のように細く、弱々しい。だけど、確かな敵意は己の胸を突き刺して止まない。

華々しい記憶を何度も呼び出そうとしては苦しくなって、吐き気がする。

どうしてこうなってしまったんだろう。

茶褐色に霞んだフリルワンピースは何も言わずに棒のような脚を撫でている。

嵐が吹き荒れる外の世界、風雨に雷鳴の音は荘厳な鐘の音のように思えて、なんだか瞼が重くなる。

これがただの睡魔なのか、はたまた死神の差し伸べる手なのかは分からない。

少なくとも、ここで私が事切れたとて誰も気が付かないということだけは分かる。

救われない部屋の片隅で、私は無機質な瞳から覗く世界を閉じた。錆びた球体関節はもう動かない。立ち上がれない。

少しだけ口角を上げることも叶わない私は、そのまま泥のような夢に堕ちた。
目覚めるかも分からない夢のなかに。

<部屋の片隅で>

12/7/2023, 10:45:43 AM