蝉助

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「ジルって太陽みたいだよね。」
秋の終わりかけに関わらず、やけに暑かった日の夕暮れ、夕食の準備をしていたレイチェルが呟いた。
特に会話の流れでそうなったということもなく、今日のような晴れた夕方に突如として雨が降ってくるようなものだった。
古い椅子に腰掛け、ビーフシチュー用の野菜を切るレイチェルの姿をぼんやりと眺めていたジルは、突拍子もない言葉に狼狽える。
「……ありがと?」
とりあえず礼を言ってみた。
しかしレイチェルは包丁を持った手を止め、少し不満そうな顔でジルを睨む。
「違う。褒めてない。」
「あ、ごめん。」
「飛び抜けて明るいとか、人を照らす優しさとか、そんなのじゃないから。」
そう言われて、ジルはふと察した。
多分、これは怒られているんだ。
最近は大人しく問題行動はしていないと思っていたけど、無意識に何かやらかしてしまったのかもしれない。
しかしここで態度を変えても彼女の機嫌は悪化するだろうし、ジルは十字架を切って素直に言い分を聞き入れた。
「太陽って、近くで見るととんでもない熱量でしょ。それこそ人なんて存在ごと抹消するくらいの破壊性を持ってる。地球、遠くから見てるから灯りと熱を届ける神様的な存在になっているだけで、本質はただの破壊兵器だよ。」

8/6/2024, 11:00:06 AM