竜胆

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クリスマスの過ごし方に決まりは無いが、
オレは一度もケーキを食べたことがない。

だから死ぬまでに1度だけ、クリスマスケーキを
食べてみたいと思う。

雪のちらつく路地裏に、
血みどろで転がっているオレには無理だろうか。

こんな家業に生まれついた者の運命だろう。
人を殺して、最後は殺される。
その為だけに生まれてきたたくさんの同僚たち。
成人できる者の方が少ない世界を生き延びるには、
ケーキなど食べる暇が無かったのだ。

すぐに追手が来ることだろう。
そしてオレは出血多量で目の前が真っ白だ。
もう一歩も動けそうにない。
寒さも分からないくらい血の気が失せている。
最悪だ。
このままでは本当に此処で死ぬことになる。
覚悟は出来ている。
いつか来る日を楽しみにしてさえいた。

だが。
クリスマスケーキを食べたい。
こんなことが人生最期の言葉になるなんて。
そんなのは、

「…絶対に嫌だ」

白い息が吹き出した。
どうにか壁に背中をつけてずりずりと立ち上がる。

「クリスマスケーキを食べるんだ…!」

まさかクリスマスケーキを食るために逃げるなんて、と面白くなって笑ってしまう。

次の瞬間。
ガチャリ。と音が鳴って、
何かがぶつかった音がして、世界が暗転した。





「あっ、目ぇ覚めたん?」
「…?ダレ?」
「それはこっちのセリフやで。
僕はな?
昨日の夜外のゴミ箱行こ思うて、
戸を開けただけやねん。
したらあんたが倒れてきたんや。
なんにもしてへんのに人は倒れてくるわ、
そいつは気ぃ失ってるわ、
血みどろやわで大変やってん。
応急処置せなあかんし
何をしとったんやあんな所で。



12/25/2024, 2:58:05 PM