蜩ひかり

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 夢でいいから逢えますようにと願ったひとほど、夢の中ではわたしをひどく幻滅させるようなふるまいをする。そんなときは目が醒めるたび朝が来て良かったと思うし、現実もそう悪くないものだと考える。
 太陽が昇る理由なんてひとつしかなくていい。
 今日もあなたがあなたとして生きているからだ。

 街ですれ違うひとびとと、夢ですれ違うひとびとの距離が縮まっていくたび、夢と現実の境目に看板が立っているならきっとこの辺りのどこかだろうと思う。
 夢で見た誰かの顔を、名前を、なにも知らないことが増えた。かれらとは眠る前にどこかですれ違ったのか、ハルシネーションが生んだ幻覚なのか、監視カメラは認識しない。顔認証は役に立たない。夢の中のわたしはどこまでも盲目で、誰の話にも聞く耳をもたない張りぼてだ。
 無意識が書きあげた存在しない台本上で、友人Aとか上司Bとかラベリングされていたあのひとたちの、ほんとうの名前はなんと言ったのか。
 さっきまであれほど親しげに話していたのだから、一言でも聞いておけばよかった。けれどもわたしは何度でも律儀にその反省を忘れ、夢の中にいる私Cとして、世界観が許す範囲内の常識を守って生きる。

 たまにでいいから、役名がわかるあなたと、東京Xの何処かで偶然に出会いたいと思う。
 それがあなたZだったとしても、本当にたまに優しい時があるから。

(夢と現実)

12/5/2024, 6:12:30 AM