目の前には、友達の彼女の安らかな微笑み……があったが、それは寝顔ではなかった。
「おはよ。よく眠れた?」
目に笑みを浮かべながら優しく声をかけてくる。
「うん。……今、朝?」
「んー、昼かな」
「………お母さんのところ、帰らなきゃ…」
いつもは日の昇る前に起きられる私が昼に目を覚ました時点で何かがおかしかった。
「ねぇ、どうして帰るの?」
起きあがろうとする私の肩を少し押さえ込みながら問いかけてくる。
「怒られるから…」
「私なら怒らないよ」
半身を起き上がらせた私の手を彼女が絡めとる。それは鏡の中の自分と手を取り合って相対しているかのようだった。
「ね、帰らないで。置いて行かないで。私と一緒にいよう?」
彼女はそう言って私に抱きつく。二度と離さんとばかりの締め付けに息が詰まった。
「置いて行ったりなんか……ただ家に帰るだけだよ」
「でも、ちょっとずつ思い出せてるんでしょう?“前”の記憶」
前、それが何を指してるのかはわかる。けれどあれは…前世というよりは。
「パラレルワールドって知ってる?もしもあの時あの選択をしていたら…っていう。私はねぇ、貴女が死なない未来を探してる。ずっと、ずっと」
取り合わされた手が強く握りしめられ、彼女の目から大粒の涙が溢れる。私はその涙を拭くことができなかった。
【手を取り合って】
お題が更新されるごとに進む物語No.6
7/15/2023, 3:11:18 AM