Frieden

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「同情」
(2/14「バレンタインデー」と一緒に読むと面白いかもしれません)

ここは罪の国。幼子の悪戯から裁かれていない巨悪まで、
多種多様な罪の数々がコレクションにされる国。
俺はこの国に送られてきた数多の罪を管理する役人だ。

最近、この国に新しい大罪が加えられた。
なんでも、お菓子の国の姫君が猫の国の王子を毒殺したらしい。

噂には聞いていたが、まさかそんな大事件が本当に起こっていたとは。「事実は小説よりも奇なり」とはよく言ったものだ。

姫君は色んな飾り付けをしたチョコレートをバレンタインの日に王子へと匿名で贈ったようだ。それを喜んだ王子は何にも考えずに全部それらを口にして、結局命を落とすはめになったと聞いた。

彼女は自分の好きな相手のことをろくに知りもせず、相手の命を奪ったんだ。少しでも調べたらわかることだろう。猫にとってチョコレートは毒だってことくらい。

とにかく、一国の王女が異国の王子の命を奪うという罪を犯した。理由はひとつ、彼女はあまりにも無知だったのである。

犯した罪は裁かれなければならない。
しかし俺は無知故に生まれた罪について、考えを巡らしていた。

俺たちは知らず知らずのうちに誰かを、何かを傷つけていないと言い切れるのだろうか?
己の無知によって自分の首を絞めてはいないか?

だが、無知であることはある意味幸せなのかもしれない。
「知らない」ということは、悩みが生じないということでもあるから、ある種の心を守る手段でもあるだろう。

それでも、だいたいの場合「無知は罪」とされるのだ。

彼女は、「恋するひとにバレンタインの贈り物を届けた」だけなのだ。しかしそれが仇と、罪となった。

飴細工でできた罪を大きなキャビネットにしまいながら、俺は彼女に同情した。君だって、無知による罪の被害者だもんな。好きな人を失ったんだから。

さて、今度はどんな罪が届くだろうか。
次の仕事に取り掛からなくては。
大きな伸びをしながら、俺はこの部屋を後にした。

2/20/2024, 4:11:37 PM