1枚1枚、ノートのページをめくる
ループものの作品は、未来の記憶を頼りに悲劇を回避する
そういう展開がお約束のはず
けど僕はどうやら、ループしているものの、記憶までは保持していないらしい
保持していないのに、なぜ僕はループに気づけたのか
それは、血のついたこのノートのおかげだ
どうやら死の直前に所持していたノートは、次のループの始まりに自動的に引き継がれるようで、未来の状況やループについて書いてあった
2回前のノートは引き継がれない、とも
ノートの血は僕の血だろうな
ノートにはループ105回目と書かれていた
ずいぶん死んだな
今の僕はループ106回目か
ただ、ノートの内容を信じ、死が迫っていると知っても、僕に恐怖はない
たぶん、自分に興味がないせいだろう
それでも、前回までの僕はなんとかループを抜け出そうとしていた
まあ、それはそうだよな
僕は自分に興味はないが、他人のことは大切だ
人の不幸は見たくない
たとえそれが、僕を害する存在でもだ
僕の死んだ原因だけど、実は僕にはストーカーがいて、普通の人なら警察へ相談するレベルの被害を受けている
ノートによると、興味がなかったので無視し続けていたら、逆上され、殺されたそうだ
たしかに、僕は彼女のことを無視し続けている
結果、これから僕は殺されるのか
僕のことはどうでもいいけど、相手が殺人犯になるのはしのびない
自分でも頭がおかしいと思う
でもこれは本心だ
さて、彼女を罪から救うにはどうすればいい?
前回の僕は、彼女の行為が彼女自身の人生に与えるデメリットを解説したようだが、それは死ぬよな
そんな解説を聞き入れるような冷静な心理状態じゃないだろうに
ではどうするか
僕は閃いた
彼女の思いに応えればいいのではないか
それは自分に興味のない僕だからこそできる方法だ
僕は彼女のために人生の全てを捧げよう
後日、彼女は僕の前に現れた
目はギラギラしている
今日が運命の日だ
僕は、相手が行動を起こす前に、彼女の愛を受け入れることを伝えた
これからの僕は、もう彼女のものだ
……と思っていたら、彼女は動揺し始めた
結果を言おう
僕はなぜか自分のストーカーにフラれた
僕に愛を受け入れると言われた途端、なんともいえない嫌悪感が溢れてきたそうだ
これが蛙化現象というものか
彼女は今までのことを唐突に後悔したようで、謝りながら自分が間違っていた、自分の好きな相手に強く迫るのはもうやめる、と言い出した
死んだ僕の書いたノートが消えていく
僕はひとりの人間と自分の命を守れたようだ
もうループすることもないのだろう
彼女を見送ったあと、僕は安心して自宅へ帰った
相変わらず僕は自分に興味がないけど、これからは他人を積極的に助けられる人間になれる
そんな気がした
9/2/2025, 11:48:31 AM