とある恋人たちの日常。

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「ただいまー!!」
 
 彼女の元気な声が玄関から響き渡る。俺はその声に誘われて彼女を迎えに玄関に足を向けた。
 
「おかえりー!」
 
 彼女と視線が合うと、ぱぁっと花のような笑顔が咲きみだれる。そして彼女は迷わずに俺の胸の中に飛び込んできた。
 
「スゥーーー」
「こらこら、吸わない吸わない」
「だって落ち着くんだもん」
 
 帰ってきて早々の奇行に驚きつつ、俺も彼女を強く抱き締めながら彼女の肩に顔を埋めた。
 
 自然と深呼吸してしまう。
 
 ふわりと風が運んでくれる彼女の香りに心地良さが勝ってしまった。
 
「……吸ってるでしょ」
「…………ごめん」
「私のこと、ダメって言ったのにっ!」
「ごめん、こんなに心地いいとは思わなくて」
 
 ついつい、彼女の温もりと香りを堪能してしまった。
 
「家に帰ったらあなたを充電させてください!」
「でも匂い嗅がれるのは恥ずかしいよ?」
「自分は私を吸うのにー」
 
 ぷくっと頬をふくらませて抗議するけれど、困ったことにこの顔も可愛いんです。いや、本当に困ったな。
 
「でも……一緒に住んでいるのに別のにおいなんですね」
 
 素朴な疑問をこぼす彼女。
 言われると確かにと思った。
 
「うーん、もしかしたら個々のフェロモンかもね」
「フェロモン?」
「同じボディーソープ使っているのに俺は君のにおいに癒されるのは、生理的に俺個人への影響なのかなって」
 
 彼女が難しい顔してきたぞ。
 
「えっと……そうだな、俺は君が好きってこと」
 
 それを告げると、満面の笑みを浮かべてから、全力で俺に抱きついてくれた。
 
 
 
おわり
 
 
 
二九四、風が運ぶもの

3/6/2025, 1:18:36 PM