わたあめ

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俺には懐かしく思い出す出来事など何もない。
緊張の連続の中で生きていた。幼い頃から常に腹を空かしていた。次いつ食べ物にありつけるかわからないから、食べ物がある時には食べられるだけ食べた。風雨を凌げる場所を求めて歩き彷徨った。
周りは敵ばかりだった。強くなければ生き残れないと悟った俺は近づくもの全てに牙を向けた。腕にできた傷も片目がよく見えないのも激しい闘いの証だ。
強くなったが、敵が減ったわけではない。そこらじゅうに敵がいた。いつ誰に襲われるかも分からない日々。
そんな俺に周囲の人間も冷たい目を向ける。
孤独だった。毎日精一杯生きてきただけなのに。

今では年老いて何もせず寝ている事が多くなった。誰かが近づこうがもう闘う気力がない。
ただ、こんな年寄りに闘いを挑むやつもいなくなった。
そっと俺の頭や背中をなでたり、食べ物を持ってきたりする。
仔猫の時分に母親にしてもらったことを思い出す。とても安らかな気持ちになり、無意識にノドを鳴らしてしまう。

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お題:懐かしく思うこと

10/31/2024, 4:21:21 AM