ライ麦粉

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 ある日憐憫に身を寄せた。
 らしくもないと思い至ったら、次の瞬間には嫌悪に変わった。
 それでも日が落ちたらすっかり忘れて、今度は友情に嫉妬した。
 なんの脈絡もなくふいにそう思って、そんな自分は酷く愛おしかった。
 
 よくある話だろうか。
 相反する様に思える感情が、自覚されればいつの間にか二人、背中を合わせて息をしている。
 そうして自分は混乱する……本当に? 好いた事もあったじゃないか。
 何も、考えていない様にも思える。
 考えすぎて、思考がおかしくなった様にも思える。

 いつの間にか涙を流して、感動したのかと後から気付く。
 たちまち言葉が大きくなって、怒っているらしいと他人事の様に言う。
 一日が充実して、身も心も疲れはてた時か。
 日がな布団で過ごして、退屈だと大袈裟に嘆いた時か。
 理由も知られず、経緯も分からず、何を考えたのか、思い出す情景が目まぐるしく移ろって、笑いたく、泣きたく、語りたく、黙りたく、唯、無性に狂いたくなる。
 そんな感情の奔流に、身を任せて良いものか。
 不安か、安心か、どうでも良いのか、どうにかしたいのか。
 確かな事が、一つづつ消えていく。自分は、誰でもないのか。何処にも居ないのか。
 




 ──ああ、ああ。違います。

 書きたくないんじゃありません。

 見せられない程に醜い訳でも。

 美しすぎて自分だけのものにしたい訳でも。

 ただ、ただ──

 書き表す術を、私は全く、存じ上げないのです。

【どこにも書けないこと】

2/7/2023, 3:06:51 PM