【空模様】
突然降り出した雨。雨宿りのために駆け込んだカフェで、コーヒーを待ちながら連れが言った。
「『女心と秋の空』って言葉、元は『男心と秋の空』だったらしいよ」
急に何を言い出したのか、と思わなくもないけど、こいつがいきなり話題を変えるのはいつものこと。こんな空模様だから、天気にまつわる雑学が思い浮かんだだけなのだろう。
「そうなんだ? どっちにしても人の心は変わりやすいってことかな」
「いや、それが。元々は恋愛的なやつで、恋人に対する『男の愛情』が移り変わりやすいって意味なんだってさ」
「……なんか嫌。どうせ浮気するって言われてるみたい」
あはは、確かに。と連れが笑った。それから急に真顔になって、
「俺はしないよ、浮気」
と、言った。
「ああ……うん」
曖昧に頷きながら、自分の頬が少し熱を持っているのを感じた。
「俺の愛情は夏の昼の空みたいにずっと晴れだから。変わらないから」
「昼限定?」
「だって、単に夏の空って言ったらゲリラ豪雨が来そうだなって」
あはは、確かに。と笑ったところで、コーヒーが届いた。
外はもう明るくなってきていた。
8/19/2024, 2:06:26 PM