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『ルール』


良い子になりたかった。良い子でいないと、怒られるから。嫌われるから。だから、ルールを決めた。これを守っていれば大丈夫。これを守っていれば、良い子でいられる。そうやっておまじないにもお守りにも似ていたはずのそれは、いつしか私を縛る呪いになっていた。
どうしたってルールを破ってしまう自分が嫌いで、憎くて、苦しくて、もう全部終わりにしようって、そう思ったのに。

「ルール、ルール、って何回も何回も言われるとさあ、破りたくなっちゃうんだよね」

私、悪い子だから。意地悪げな笑みを浮かべたまま、あなたは私の手を掴んでそう言った。
『踏み込まないこと』。それが、二人の間に唯一あったルールだったのに。

「……むちゃくちゃじゃん」
「そうだよ、私は悪い子だし、無茶苦茶なの。だから、諦めて?」

そのまま、ぐっと力強く引き寄せられる。勢いのまま彼女の胸に飛び込んで、二人一緒に灰色の地面に倒れ込んだ。
足元、見下ろしていた街並みが、一気に遠ざかった。

「お、やっと泣いてくれたね」

顔を上げるなり、彼女の手が頬を撫ぜる。指先に付いた雫を見て、私はやっと自分が涙を流していることに気が付いた。

泣かないこと。

「……しんどかった」

弱音を吐かないこと。

「そっか」

誰にも、迷惑をかけないこと。

ボロ、ボロ、と。自分で作り上げて今まで守り続けてきたルールが、彼女によって一つずつ崩されていく。呆気なく、容赦なく。いとも簡単に。

「…これじゃ、私、悪い子になっちゃうや」

ぽつりと零した呟きは、独り言のつもりだった。けれど、彼女はそれすら聞き漏らしてくれなかった。

「それじゃあ、共犯ってことで」

ニッと笑ったその顔が眩しくて、視界がまた滲んだ。

4/24/2026, 3:00:05 PM