屋上のフェンス越しから見える網々の太陽。
運動場では、部活動に励む声が聞こえてくる
一生懸命やっている姿が、俺には眩しく見えるぜ。
「立入禁止の屋上でなにやってるんだ?不良高校生の伊藤」
そう言いながら俺の横に現れたのは、同じクラスの神取。
超有名企業の社長の息子だ。
「そういうお前もここに来てるじゃないか。お坊ちゃんの神取」
「ふっ、そうだな」
神取は鼻で笑い、俺のツッコミを華麗にかわす。
「てか、迎え来てるんじゃないのか?」
神取は毎日車で送り向かいしてもらっている。
登下校疲れずに済むから、羨ましいなっていつも思う。
「今日は歩いて帰りたい気分でな。先に帰ってもらった」
「ふ~ん。でも神取はいいよな。車で送り向かいしてもらって、しかも金持ちだから色々出来て苦労しないだろ。俺なんて、ふつ~の高校生だから金はあんまりないし、生まれた場所が違うだけでこんなに変わるんだな。俺は人生負け組だよ」
「……いや、それは違うぞ伊藤」
珍しく、神取が反論してきた。
「金持ちだからって、色々出来る訳じゃない。逆に出来ないんだ。僕は跡取りとして、父さんみたいになるために、勉強、習い事、会社の視察……毎日びっしりとスケジュールが組まれている。僕は普通の高校生の伊藤が羨ましい。君は負け組なんかじゃない」
「そ、そうか……」
こんなに喋る神取、初めて見たぞ。
しかも俺が羨ましい……か。
神取は神取で色々苦労してるんだな。
「……」
それから会話がなくなり、少し重苦しい空気が流れる。
神取の事情を知らず、悪いことを言ってしまった。
こういう時は……そうだな。
「神取、このあと時間あるか?」
「ん?ああ、少しなら」
「よし、じゃあ商店街にあるハンバーガー屋に行くか」
「なんでまたハンバーガー屋なんだ?」
「ふつ~の高校生がすることだからだよ」
「ふっ、そうか。分かった、じゃあ僕が奢る」
「いや、今日は俺が奢るから」
「君は金がないんじゃ……」
「それぐらいあるわっ!」
学校の帰りに、同じ所へ行って同じものを食べる。
これで、お互い平等。
生まれた場所が違っても、同じ所へ行けるなら、案外人生に勝ち負けなんてないかもしれない。
「そうと決まれば早く行こうぜ」
「せ、背中を押さないでくれ」
俺は神取の背中を押して校内に戻り、二人で同じ階段を下りた。
6/1/2025, 12:50:14 AM