萌葱

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「今日の心模様は晴れ後大雨ってとこだったでしょう」
彼はまるで天気予報士のように淡々とそう言ってのけた。口調とは裏腹に、彼は口角を片方だけ上げた皮肉気な笑みを浮かべている。私はムッとして彼を睨んでみせた。
「当たりなんだ」
彼はうわずったような独特な笑い声を立てて、またビールを口へと運んだ。
私は彼を無視して唐揚げに箸を伸ばした。
そのまま黙って齧り付く。
そんな私を見て彼はまだ続ける。
「また上司に嫌味でも言われたんだろ、顔に出てる」
それでも尚、私が無視してビールを煽っていると、彼はずりずりとこちらに這ってずいっと私に顔を近づけた。目を細めてにっこりと笑っている。
「…けどまだ今日は終わってないよ。俺がこれから晴れにしたげる」
彼はそう言うと両手を伸ばして私をぎゅっと抱きしめた。お酒を呑んで体温が上がっているのか彼はとても温かくて抱きしめられているのはとても心地良かった。そのまま彼はよしよしと私の頭を優しく撫でた。

本当は、仕事が終わって彼が家に来た時にはもう心に雨なんか降っていなくて、彼の顔を見ただけでほっと心が軽くなって言われた嫌味なんてどうでもよくなっていた。

けれどこうやって慰めて欲しくてわざと落ち込んだ顔をつくってたの。
私はあなたに会えるだけでいつだって心は晴れる。
なんて恥ずかしくて言える訳がないけれど。

4/23/2023, 12:46:06 PM