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【secret love】

一度目に会ったのは
友達に連れられた夜の食事会
友達の友達の友達
それが彼だった
けれど前から知っていたみたいに
すんなりと話せて
意外なくらい趣味が合って
考えを理解してくれて

二度目に会ったとき
みんなには内緒だった
こっそりと連絡を取り合い
会う約束をして
当日を迎えた
昼間のカフェで見る彼は
明るくて爽やかで
穏やかさと安心感があった
ただコーヒーを飲んで話すだけでも
大事な時間に思えた

三度目に会った日
私は彼を好きになった
映画を観に行って
簡単な買い物をしただけ
彼の感動屋なところと
優しいところに触れて
私は彼にすっかり心を掴まれてしまった

一番の友達にも他のみんなにも
彼とのことは話さなかった
彼も私とのことを誰にも言わなかった
みんなとは仲がいいからこそ知られたくないことがあったし
長い付き合いの中で汚い部分も知っていた
なにより彼が
「会っていることは二人だけの秘密にしよう」と
悪戯っぽい笑顔で言ったことに
私はときめきながら頷いてしまっていた

それから私たちは恋人同士になったけれど
二人で会っていることはずっと秘密にしていた
健全で清らかな付き合いのまま
誰に話すこともなく温かい時間を過ごす
二人だけの秘密を持っていることが
私たちの愛を盛り上がらせた

でも、ある日その時間は唐突に終わりを告げた
二人で歩いているとき、たまたま友達に出会して
あとから彼の素行の悪さを知らされたのだ
はじめは信じられなかったが
彼のSNSや他の友達とのメッセージのやりとりを見て凍りついた

SNSには彼のプロフィール
まだ二十五歳と若いが既婚者で子供が二人
年齢は二十三歳で私と同じ歳だと嘘をつかれていたし
家庭を持っていて奥さんと子供までいるなんて
思わず眩暈がした

メッセージのスクリーンショットには
私をそろそろ落とせそうだとか
どうやってホテルに連れ込むか一緒に考えてくれだとか
男友達とやりとりしている様子が残されていた
私との会話や行動も逐一報告されていた

それから彼のSNSの鍵アカウントの投稿
親しい友達数人とだけ繋がっているようだが
その中の一人があまりに酷い内容だからと私の友達に共有したらしい
今までの投稿を見たところ
彼は体の関係を持つのにも慎重に時間をかけて
女という獲物を狩ることをゲームのように楽しんでいる人だと分かった
恵まれた容姿や知性を活かし
いかに相手を自分の虜にさせるかという遊びにハマっており
私以外にも複数の女性を同時にもてあそんでいた
相手の女性を大切にしている素振りを見せ
一度だけ事に及んだら目標達成
女性に興味をなくして一方的に連絡を断つ
相手が困惑しようが妊娠していようが関係ない
おまけに盗撮をして画像や動画の共有や販売までしていた

証拠を見てもすぐには信じられなかったが
投稿内容や載っている画像などは
どれもが投稿したのが彼だと示していた
私と彼にしか分からないはずの会話内容
彼にしか撮れないはずのアングルの写真
彼にしか知りえない情報
そしてそれらを許可もなく晒した挙句
仲間うちで笑いものにし、暴言を吐く
女性を物のように扱う彼は
私の知っている彼ではなかった
私は彼の何を見ていたんだろう
私の側で、本当の彼は何を考えていたんだろう

翌日、電話で別れを告げると
彼は驚き、慌てているようだった
どうして? 俺、なにかした?
なにかあったなら言ってほしいな
まだ善人を演じている彼に
すべてを知ったことを伝えると

あー、つまんねえ

と低い声が返ってきた

お前とヤれるか賭けてたのによ
大損だわ

聞きたくない、聞きたくない
彼との秘密の温かい時間が粉々に砕けていく
私は電話を叩き切って
しばらく泣きながら吐いた

私が二人だけの秘密に酔った罰なんだろうか
見抜けなかった私が悪いんだろうか
こんなに傷付いたのは自業自得なんだろうか
優しかった彼は幻だったんだろうか

どうしてこんな想いをしなくてはならないんだろう
信じた愛はぜんぶ偽りで
信じていたのは私だけだった

9/3/2025, 2:13:39 PM