ㅤ最初は、何を書いても単純に楽しかった。美しいと感じたものや心を動かされたものを、真っ白な画面にどんどん写し取っていくような感覚でいた。SNSに上げる度、いろんな人が褒めてくれた。
ㅤけれどだんだん、冷めていく自分をさくらは感じた。いいねをもらうと嬉しいけれど、それがすべてではない気がした。投稿通知が届くたびにいちいち開いて、感想を伝え合うのがめんどうになった。そんな時間があれば、何かを書いていたかった。
ㅤパソコンの執筆画面を開く。真っさらな原稿用紙のいちばん右上の枠で、点いては消える縦の棒を眺める。彼女の心はしんとして、静かなる森へ分けいったような気持ちがする。
ㅤああ、これこそが世界なのだ、と彼女は思う。私はもう何も要らない。これ以外、何も要らないのに。
『静かなる森へ』
5/11/2025, 9:54:49 AM