「わかってしまう」
「どこで覚えてきたの、そんな台詞」
妙な気持ちになっていることを悟られたくなくて、私は彼を突き放した。
ただの幼馴染。
そのはずなのに。
それまで見たことのない彼の表情に、胸の奥が跳ねる。
こんなに長い年月、一緒に過ごしていたのに、なぜ今こんな気持ちになるのだろう。
全身を駆け巡る言葉が甘くて溶けてしまいそうになる。
私を見つめているその顔も声も他の人には見せないものなのかもと思ってしまう。自惚れだと解っていても。
「こんなこと言うの、お前だけだし」
これがトドメでなくて何であろうか。
どういう意味──なんて、白々しく訊かない。訊けない。
「わかってるよ」
それだけ言って、顔を背けた。
顔が、体が熱い。
どうか今、触れたりしないで。
無自覚だったものを、自覚してしまう。
この気持ちが何なのかを。
────落ちていく
────────────
「私は両親みたいにならない」
環境というのは恐ろしいものだと、つくづく思う。
世の中の夫婦は皆していると思っていたことが、常識ではなかったということに気がついたのは、高校生になってからだった。
そう、私の両親はとんでもないバカップルなのだ。
挨拶のハグとキスは日常。
ナチュラルに行われる「はい、あーん」
月の半分以上は一緒にお風呂に入っている。
シミラールックなんて言葉が流行る前から、ふたりの服装は統一感ばっちり。アルバムでも確認済だ。
「仲良くて良いなー」
うちの両親を見て呑気に呟く彼氏。
私は決意した。
「絶対、私は両親みたいにならない……」
────夫婦
11/23/2024, 12:05:52 PM