【お花畑ヒロイン】
はい、皆様ご機嫌よう。いよいよ始まりましたわね、王室舞踏会断罪イベント!
魔法球で皆様へ通信(LIVE配信)しつつガッツリ証人と証拠を獲得していきますわ。
お送り致しますのは、バーベイン公爵家の一人娘、カレンデュラですわ。
納得行きませんけど立場的に悪役令嬢と言うところかしら。
そして、向こうはエルダー男爵家養女、もとは平民の清楚系尻軽乙女ミント様と、その(貞操が)ユルふわの魅力にまんまと骨抜きにされたアルカネット王家の第一王子であるディル様。
そして、王子の側近であるミント様ハーレムのご一行様です。
本日も、節操なしの彼女の周りは殿方ばかりですわね。同性の友人がいらっしゃらない時点で色々察せるでしょうに。
私は王子達に優雅なカテーシーをして見せます。(ドレスを摘まんでお辞儀するアレですわ)
「婚約破棄の件、その理由を伺っても宜しいでしょうか」
「理由など分かっているはずだ。彼女を取り巻き達といじめ抜き、様々な嫌がらせの限りを尽くしただろうっ! 令嬢達で仲間はずれにし、彼女の物を盗み、暴力まで行ったと聞いている」
ミント様が儚げに同意と言わんばかりの涙を浮かべて王子にすり寄ります。
「証拠はありますの?」
「彼女の証言、そして私や彼等もミントが同級生に叩かれる所を目撃した」
「まあ……また何をしてかしたのです、ミント様」
「なんだと!」
この女の素行の悪さは一つ一つ答えていたら朝になってしまいますわ。
「神に誓って、私は何もしておりません。ミント様が冷遇される理由は彼女自身の不徳故ですわ」
私に同調する令嬢達の声がザワめいた。
「卑劣な……」
そのざわめきが公爵家の息の掛かった者に見えるとは、恋は盲目と言うより馬鹿量産の病ですわね。
「酷い……酷いです」
ハラハラと涙を流してミント様は王子の胸に抱かれようとします。
そこへミント様ハーレムの皆さんとセイン、ジョーンズ、ワートの三人がミント様に駆け寄ります。
「なんと酷い言いがかりだ」
「こんな清廉な姫が……」
「こんなにも悲しんでいるのに何とも思わないのか」
「良いの、私が悪いのは分かっています……でも、茶会も晩餐も無視されたり、怒鳴られたり頬を叩かれるのは怖い……」
ワッと泣き崩れるミント様に同情的な男性達と白ける貴族家達の温度差は明白でした。
それはそうですわ。
悉く、幼少から信頼を築いて交わしてきた許嫁のご令息達を根こそぎかっ攫う女と仲良くしたい奴なんているものですか。
私は溜息を一つ零して口を開いた。
「ディル様、今、この場を全体的に見てどう思われますか」
第一王位継承者たるもの、この場の温度差とミント様に婚約を破談されたご父兄や令嬢達の敵意に気づかない様では務まりませんわ。国王も王妃も頭を抱えているのに、見えてないのかしら。
そして何より、ミント様の周りには結婚適齢期のご令息以外に居ないことも気づくべきです。なんですか、皆で花嫁をシェアするんですかね?
「お前が根回しした穢れた貴族達だ。みなミントに誤解している」
でしょうね、うん。目、見えてないのよね。
「よくご覧下さい。両陛下共に貴族全体が、殿下とミント様がご一緒に居ることを快く思っておりません。それは何故か。ミント様の周りに居る数多くのご令息達は皆、以前は婚約者がいたのです」
「その婚約者がミントをいじめ抜くから愛想が尽きたんだ」
ジョーンズが言い放つと男達は皆同意した。
「違いますわ。例え元平民であれ、貴族社会のマナーは学んで守るべきものです。ミント様はそうなさらなかった。婚約者のいるご令息に近づいて過剰な交流をなさっていました。それに対し注意する者が現れるのも当然でしょう。今もですわ、男爵家の令嬢がシャペロンも付けずにこの場にいるなんてマナーがなっておりません」
シャペロンとは同伴する父兄や年上の女性事ですわ。婚約者がいれば、婚約者を伴うのがマナーです。なので、見れば一発なのです。この舞踏会にご父兄や親族の女性達がやたら参加しているのは、そこのミント様が原因です。
無論、私のシャペロンもこの場に居ります。
「元平民と侮辱するのか!」
話にならない……。こうなったら、御兄様に証言をと私は兄に振り返ります。
兄は貴族達に手を上げて合図をすると、魔力を秘めた指輪をかざして、映像記録をその場に映し出しました。
貴族社会では諍いや陰謀が絶えませんので、こういった記録用のアイテムは必須です。裁判になったら証拠として提出できますもの。
映像記録には御兄様がミント様に誘惑されるシーンがたっぷり入っております。
『ソレル様っ、何してるんですか?』
御兄様はこの舞踏会に入場する前に絡まれた記録を映し出しました。
馬車から降りてきた御兄様にいきなり飛びついて、腕を絡めて胸を押しつけます。御兄様は虫唾が走るのか、すぐに引き剥がして威嚇しました。
「無礼な……誰か、引き剥がせ」
「そんな酷いです。私はこんなにも好きなのに……」
ハラハラと小動物みたいに泣き出すミント様に兄は汚物を見るような目を向けて「穢らわしい……」と呟きました。
すると貴族の群衆の中から、ポッと映像記録が飛びだします。
『ジョーンズ様は私を可愛いと言ってくれます。私もそんなジョーンズ様が愛しいと思います』
すると堰を切ったように映像記録が飛びだし、ミント様が如何に殿方とみれば節操なく飛びついていたかが分かるはずです。
『ごめんなさい、私、セイン様が貴女の婚約者だなんて知らなくて……でも、この気持ちは真実です。こんなに人を愛したことありません……』
『ワート様、はい、あーん。ふふっ! ほら、口元についてますわ。ぺろ☆あ、やだ私ったら……はしたない……』
婚約者の御令嬢を目の前にして、デレデレする二人を映し出す映像には、周りから同情の声が湧き起こった。それよりも非道な事をされたと、仕舞いには物陰に連れ立って行く二人や、キスをする二人、ミント様ハーレムがミント様と白昼堂々と獣のようにイチャつく様などが次々に現れ、舞踏会会場はミント様のはしゃぐような嬌声(とにかくぶりっ子で気味が悪いヒロイン声)で溢れかえります。
そして最期に、記録の中のミント様の声が重なって共鳴しました。
《ディル様には内緒にしてね。私、お妃様になるのが夢なの。でも、あなたの花嫁になるのも、幸せだろうな……大好き》
プッと映像が消える。青ざめた二人と信頼していた王子の側近達(ミント様ハーレム)は互いに顔を見やり、弁解の言葉と言い訳が飛び交います。
そこで私はまた優雅なカテーシーをしますと、一言申して退場いたしました。
「では、末永く脳内お花畑とお幸せに」
9/18/2022, 3:12:46 AM