「どうすればいいのだろうね?」
隣から聞こえた声にそっと顔をあげる。ちらり、と顔を向けて見ると彼の方も私を見ていたようだ。その綺麗な双眸に「何が」と言いたげな私の顔が映っている。
長い間、私の隣から姿を消していた癖に。
ふわり、冬を連れて戻ってきたものだから、驚く暇もなく受け入れてしまった。
見ない間に随分と変わった所があるものの、優しく美しい硝子玉のような双眸と、飴玉のように軽く丸く甘い声は以前と何も変わっていない様だから、昨日またね〜と言って別れた友と、また今日も会えたかのような感覚にさせる。
狡い人だ。さよならも言わずに姿を消したくせに、ただいまも言わずに隣に戻ってくるなんて。
にこり、形のいい唇が笑みを作る。
胡散臭い笑顔なのに、信じ崇めてしまうような雰囲気が彼の魅力だと思う。
「何が、どうすればいいって?」
やっと聞いてくれた、みたいな顔をする彼を少し睨みつける。星のように輝いている瞳に映っている私も、彼の言う「私の目に映る全ての人を幸せを願う」の中に入っているのだろうか。
純粋無垢な彼の中に、醜い私が存在している事実に嫌悪感が湧き出てくる。
「いいや。特に何かあるわけでも無いんだけれど」
「何それ」
「うーん。そうだねぇ。私達が生きている中で永遠というものは存在しないのだけれど、ならば何故永遠という言葉が生まれたのか、少し気になってね」
顎に手を当て、深く考えているような仕草をしながらも、中身は全く何も考えず、ただただ私の答えを待っているような気がしたから、単純に思い浮かんだ言葉を吐き出す。
「永遠に。その言葉に縋るしか生きる道が無かった人達が生み出したんじゃないかな」
「ふぅん。なるほどね」
「形あるものはいつか変わる。けれど、変わって欲しくないから永遠に縋るしかない。見て見ぬふりをして、言い聞かせて、何とかするしかないんだよ」
私に何も言わずに消えた貴方を、追い求めてここまで来てしまった私みたいに。
そう呟くと、彼は笑う。
「本当に馬鹿な人だ。私を追い求めてここまで来るなんてね」
彼は、もしかしたら。ここにはいないのかもしれない。
全て私の創り出した想像、空想、妄想で。
変わった所があるのは、結局私が都合よく生み出した結果の障害みたいなものなのだろうか。
けれど、それでも良かった。
また彼の声が聞こえて、彼の姿が見れて、その美しい目を細めて笑うのを見れるのだから。
はは、本当に。こんな事になるなんて、どうすれば良かったのだろうね。
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イメージソングはオレンジスパイニクラブさんの「タルパ」。
空想上の彼は、本物なんかではない。
けれど、存在しない永遠に縋るしかないのならば、本物じゃなくてもいい。そういう心情は大なり小なり産まれてくるんですよ。
けれど、少しの可能性が今日見えてきて、もしかしたら、彼に「おかえり」を言える日が来るかもしれないんです。
嬉しくて、泣きそうで、吐きそうで、道端で崩れ落ちそうになりました。
この世に存在する全てのことに、永遠はない。
それが愛でも恋でも恨みでも。全てにおいて永遠は存在しないと思います。変わってしまう部分もある、けれど、それが人間らしくて美しいなと思います。
きっと、おかえりと言った彼は前とはだいぶ変わっているかもしれません。
それでも、私は前とは変わってしまった愛情で、受け入れられたらな、と思います。
辛いことがあったら笑ってください。笑い声は大きければ大きいほどいいんですよ🙆🏻♀️
ワハハ。
11/21/2023, 2:42:34 PM