初音くろ

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今日のテーマ
《好きな色》





「包装紙とリボンのお色はどうされますか?」
「両方とも青系で」
「かしこまりました。それではご用意ができましたらこちらの番号でお呼びしますので暫くお待ち下さい」
「お願いします」

買った品物を店員に託し、サービスカウンターを離れる。
ふと、一緒に品物を選んでくれた妹が心配そうな顔をしているのに気づいて首を傾げた。

「どうかしたか?」
「包装紙とリボン、なんで青系にしたの?」

女性に贈るプレゼントなのだからピンクや赤などの系統のもの、そうでなくても黄色やオレンジなどの色にすべきではないかと言うのだ。
意外に保守的な選択に、俺は大丈夫だと笑って請け合う。

「青は彼女の好きな色だから」
「そうなの? でも服とかはピンク系が多いじゃない」
「自分に合う色を選ぶとどうしてもそっち系になるらしい。青系統のはあまり似合わないんだって」

好きな色が必ずしも自分に似合うとは限らない。
悔しそうな顔でそんなことを話していたのを思い出す。
そして、だから俺の服を選ぶ時には青系統のを選んでしまうのだと。
自分には似合わないけど、好きな人が好きな色を纏ってくれて、一番近くでそれを見られるのが嬉しいのだと。
そう言って、嬉しそうに顔を綻ばせていた。

かいつまんでその話をしたら、妹は若干引き気味の顔で「それならいいけど」と頷いた。
兄夫婦の惚気話なんて聞きたくもないものを聞かせてしまったかと反省する。
俺だって妹夫婦の惚気話を聞きたいとは思わない。
他人ならまだしも身近な身内のそういう話は反応にも困るものだろう。

「お兄ちゃんでもそんな顔するんだね」
「え?」
「無愛想だし、家族とだってあんまり喋らないし、そういう感じなのはお義姉さんの側だけなのかと思ってたんだけど」
「何だそれ」

妹の言い草にムッとする。
たしかに俺は愛想は悪いかもしれないし、口数もそう多い方ではないかもしれない。
だけど、相手の勢いに流されただけで結婚するほどいい加減じゃない。
つきあい始めるに至ったのが彼女からの告白だったのは事実だけど、2人でしっかり愛を育んで結婚に至ったのだ。

「あ、ごめん。そういう意味じゃなくて。お兄ちゃんがお兄ちゃんなりにお義姉さんのこと大事にしてるのは分かってるってば。それはそれとして、お兄ちゃんはそういうの表に出す人じゃないと思ってたから。てか、お義姉さんの前では見せても、私とか家族の前では絶対そういう顔は見せないだろうなって思ってたから、そういうの表に出すのはお義姉さんの側だけなんだろうなって思ってて」
「ああ、そういうことか」
「そういうこと。まさかお兄ちゃんの貴重なデレを拝める日がこようとは……お義姉さん凄いな」

調子に乗って拝むように手を合わせるのを軽く小突く。
妹は子供の頃に悪戯を咎めた時と同じ顔で笑った。

「もしかしたらさ」
「ん?」
「お義姉さんが青い色が好きなの、お兄ちゃんに似合う色だからなのかもね」
「……」

昔から青い色が好きで、服や小物は青系統が多かった。
子供の頃も、戦隊物などで一番好きなのはブルーで。
おかげで仲間内でも青系は俺の色と認識されてて、何かで色を選ぶ時は無条件で青系のものは俺に割り当てられていた。

彼女が青を好きだというのは単なる偶然かもしれない。
妹が言うのは都合のいいこじつけかもしれない。
冷静な自分が諫めるけど、自惚れたくなる気持ちは収まらなくて。

「そうだったら嬉しいな」

俺は密やかにそう呟くと、微かに顔を綻ばせたのだった。





6/22/2023, 8:55:58 AM