烏羽美空朗

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踊りを強制する愉快な音楽。脇目も振らず走り回る子供達の楽しげな笑い声。遠くの空に消えていく赤い風船に、ガタン、と聞こえた後、落ちていく悲鳴。
そして、そんなきらびやかな世界を眺めながら、長い長い行列の最前線に地味で場違いな男二人が並んでいる。

そう、これは俺と、俺がこうゆう煩い場所が苦手だと知っておきながらも「暇そうだから」という理由でネタ集めの同行人に選びやがった作家仲間である。彼いわく、恋人同士で遊園地デートするシーンを書こうと思い、リアリティ追求の為実際にジェットコースターに乗る、らしい。

何故?何故俺なんだ?こいつに女友達などいないのは知っているが、何故わざわざ俺を巻き込むんだ? というか、それなら他の奴らだっていいじゃないか!何でよりによって俺なんだ!?
いつにもなく感情が高ぶっているのを感じる。というか、不満と理解不能でどうにかなりそうだ。

怖い、乗る前から怖い。何故、何故こんな危険な物にわざわざ金を払ってまで乗るのだ。大体、スリルだけなら推理小説でいくらでも味わえる、なのに何故……。
隣にいる作家仲間を見やる。彼は平然とした顔だ。まるでこれが日常の一コマであるかのように、当たり前のようにそこにいる。
俺は違う。いつも通りじゃない。

そもそも、溢れんばかりの本物カップルを観察する方が格段にためになるだろう。別に俺が同行する必要などないのでは。それに気づいた瞬間、俺はハッとして彼を見る。

その口角が上がっていた。
こいつ、俺が怖がっているのをわかっててわざと連れてきたのか。 最悪だ。何で気づかなかった……!?
ジェットコースターがホームに帰ってくる。彼に買ってもらった大好物のチュロスを握りしめ、口に押し込みながら覚悟を決める。
大丈夫、死ぬことはない。安全バーもあるし、落ちたとしても死ぬような高さではないはずだ。きっと、きっと大丈夫。

……存分に振り回され、がたがたふらふらになった後、追い打ちで間髪入れずにお化け屋敷に連れていかれたのだが、どうなったかはお察しの通りだ。

スリル

11/12/2022, 12:12:23 PM